ROEだけではなく「経営生産性」に

ROE(自己資本利益率)だけではなく「経営生産性」に

 

・日本の株式市場は、円高になると下落なる傾向にある。ひとつは輸出企業が日本経済を支えているという固定概念による。

もうひとつは通貨はその国の債券売買(安全資産)と株式売買による需給バランスによって決まるという従来からの金利に対する市場参加の反応による。

 

・しかし本来株式市場では個別の企業の生産性が株価を決めるものである。世界的で共通の経営の効率性の指標にROE(自己資本利益率)がある。1位はデンマークで34%。2位、3位は英国、米国で22%代である。日本は12%弱で30位以下である。概ね「労働生産性」の国際比較と同じ順位にある。「ROE」と「労働生産性」はいずれもまだ日本に伸びしろがあるということになる。(1位のデンマークは1人当たりGDPでも労働生産性でも10位以内である。)

 

・当たり前であるがROEを上げるためには、まず分子の純利益を上げることである。

しかし、すべての企業が純利益を上げるための人件費の抑制に重点がいくと雇用者報酬が減り国全体の消費が減少することなる。

日本の名目GDP(国内総生産)の伸びなやみの原因となる。日本の労働者の意欲の減退にもつながり労働生産性の低下にもつながる。

 

・日本の場合、労働生産性の分母の労働投入時間(残業時間)が多いため労働生産性は低かったが、働き方改革によって改善される傾向はみられる。

生産性の低い傾向にある中小企業にも適用されるようになる。日本企業は、ROE向上にも取り組んでいるが、短期の1株あたり純利益を上げるために自社株買いに走ったり、短期借入金を増やしたりしている。ROEの向上を中長期に取り組む視点が欠けている。2015年に東京証券取引所が作成(2018年改訂)したコーポレートガバナンスコードへの取り組みが全般的に十分ではない。情報開示の頻度、株主との対話をコスト増と捉えて取り組みが後退している企業もある。

 

・ROEと働き方改革、コーポレートガバナンスコードへの取り組みを「経営の生産性」と定義して取り組めば、まだ日本の株式市場は活性化の余地がある。中長期の視点で海外からの投資も集まってくる可能性も残されてる。働き方改革の取り組みの指標は、残業時間、有給休暇といった分かりやすい指標がある。厚生労働省のくるみん認定。えるぼし認定も活用できる。コーポレートガバナンスの指標も6つの項目がある。①株主の権利、平等性の確保、②株主以外のステークフォルダーとの適切な協働、③適切な情報開示と透明性の確保、④取締役会等の責務、⑤株主との対話⑥政策保有株(持ち合い株)の状況である。これらを指標として点数化すればよい。

 

・「経営生産性」と定義すれば、「労働生産性」と労使対等(労働基準法第2条)のイメージとも合致する。ROEだと外圧で仕方なく取り組むのイメージが強い。「経営生産性」の方がROEより一般の人にとってわかりやすい。呼び方を変えただけで急に変わるものでもないかもしれないが、多くの関係者が本質を理解して継続的に取り組む行動に移すためには、呼び方も大切である。

参考文献:中小企業庁をやめて「企業育成庁」に D・アトキンソン氏 小西美術工芸社社長 〔日本経済新聞 有料会員限定〕2020/6/12:2:00  エコノミスト360°視点

 

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