ROEと労働分配率

ROEと労働分配率

・ROEと労働分配率の2律背反の関係を制度上の工夫で調整する必要がある。

・人材研修費を繰延資産計上して償却費を労働分配率の分子に入れる

・一律のジョブ型雇用の移行期の急激な変化を回避する。

 

短期株主価値資本主義の中で客観的な国際標準の経営指標としてROE(自己資本利益率)が重視されてきた。

しかし、長期のステークホルダー資本主義への移行する中で労働分配率を重視していく必要もある。ROEを重視することによって失われるものは労働分配率の低下による雇用者報酬の低下である。

それが消費の低迷につながり名目GDPを押し下げる結果につながってきた。国全体の名目GDPが低迷するとその国の企業にとってもマイナスなるデメリットも多い。

 

一方、労働分配率は一般的に 人件費 ÷ 付加価値 として計算されてきた。人件費はコストとしてのみ認識されてきた。

将来の収益を獲得するための資産として認識する会計理論は、何人かの会計論者によって主張されてきたが、客観的な指標を生み出し制度会計に反映するまでに至っていない。

 

コロナ禍を機に、各企業は、労働生産性を上げるため、通信環境の整備をはじめとしたオフィス環境と、新しい経営環境に従業員が適応するための人材教育に投資をしていく必要に迫られている。

これらは比較的長期にわたって継続的に行われる必要がある性質の支出である。これらの支出を一律にコストとして費用計上することは、単年度のROEを低下させることになる。

これらを将来、長期間にわたって収益に貢献する支出として認識し繰延資産計上をすることによって株主と経営者の利害調整をすることはできないだろうか。

これらは従業員にとっても人材価値を上げ、稼ぐ力をつけるものであることから、労働分配率の分子としての性質も有することになる。人材研修費を繰延資産として認識し5年~10年で償却する制度ができれば、労働分配率を財務諸表の長期の経営指標として活用することが可能になる。

 

日本はこれまで長期雇用を前提とした新卒一括採用が多くの企業で行われてきた。今後これを一律のジョブ型採用に一気に変えていくと、

再び就職環境がバブル崩壊後、リーマンショック後のような状況になりかねない。ジョブ型採用といままでの新卒一括採用が併存する採用形態を選択する企業が多くなると思われる。

その場合、新卒一括採用者の人材研修費、あるいは新卒一括採用前提の時代に採用された人材の再教育の費用を繰延資産として計上できる制度があれば、

株主、経営者、従業員いずれにとってもメリットのあるステークホルダー資本主義に資する会計制度となる可能性がある

 

参考:日本経済新聞:低下続く労働分配率(中) 競争促進・規制緩和、反転の鍵:シリレ・シュエルヌス 経済協力開発機構経済局副課長;2020/2/20付[有料会員限定]

日本経済新聞:低下続く労働分配率(上) 資本家の取り分 一部還元をルーカス・カラバルブニス ミネソタ大学准教授 2020/2/19付[有料会員限定]

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