最低賃金早期1,000円と労働分配率
最低賃金早期1,000円と労働分配率
・最低賃金の早期1,000円は着実に目標に向けて進めるべき施策
・労働分配率は20年以上低下傾向にある。
・コロナ禍で一度と凍結が認められると、なし崩しになる可能性が高い。
最低賃金に関して全国平均の目安がもうすぐ確定する。コロナ禍においても昨年度901円になった流れを引き継ぐことが望ましい。年3%が難しい状況でも凍結は避けた方がよい。
なぜなら、最低賃金で働く人々は、主にコンビニエンスストア、スーパー小売、飲食、旅行代理店、などの非正規労働者が多いからである。
これら対面の仕事の人々は、今回のコロナ禍で倒産等の影響を受け既に雇用不安に陥っている。ハローワークをはじめ転職市場は拡大している状況であるものの、
雇用保険の受給によってなんとか生計を立てている人も多い。自治体による教育訓練関係の募集もすぐに満員になってしまう状況である。
また、コロナ禍で株主を重視したROE経営も見直しを迫られ、それに伴い労働分配率を見直す論調もすこしずつではあるがでてきている。
財務省「法人企業統計」労働政策・研究所の資料によると、過去20年間、労働分配率は下げつづけ、現在は56%程度にとどまっている。1
997年には64%程度あり毎年0.3~04%下げつづけていることになる。これは、日本企業がバブル崩壊後の苦境の中で国際競争にさらされ、
人件費の総額を抑えていかざるを得ない状況の中で生まれた。その中で正規社員労働者の割合を減らし、賃金の低い非正規労働者を増やすことによって、
総額の人件費を抑えて利益を確保し株主価値を上げる必要性に迫られていた。こうした中、「官製引き上げ」と揶揄されながらも現在の政権で掲げられた目標が早期の最低賃金1,000円超である。
年率3%以上とすれば後4年程度で達成される流れができていた。それは低迷している消費を回復させるための施策でもあったはずだ。
コロナ禍の景気低迷で一度、凍結となってしまうと、その後のなし崩し的に年率3%より遥かに低い率に低迷し続ける世論の流れが形成される可能性もある。
しかも残念なことに現在最低賃金付近で働く非正規社員がたくさん正社員に転換できるようになっていくには、まだ時間がかかると思われる。
失望感から消費の低迷が続き、GDPの回復のペースが遅くなることにつながるだろう。
企業の雇用維持の努力とともにわずかながらでも最低賃金が上昇していけば、厳しい環境で仕事を続ける非正規社員の人々も希望をもって仕事を続けることができる。
今年は業績に考慮して大幅な引き上げは見送りつつ、いずれ5年程度の間には最低賃金は1,000円を超えることが確実な世論になれば、
失望して生活保護受給を選択する人も少なくなる。コロナ禍の状況が長引く中『弱者へのしわ寄せはこれ以上厳しくなることはない。』という安心感は大切である。
新常態を受入、コロナ禍による一連の雇用環境の悪化もいずれ収束するという冷静な世論形成のためにも最低賃金引上げ凍結は避けるべきである。
最低賃金が毎年上がり格差はこれ以上には広がらないという世の中になれば、日本の未来は明るい。
また、労働分配率が少しずつ改善し過度な短期株主資本主義からステークホルダー資本主義に代わっていけば、日本の強みが生かせる環境になる。
労働分配率の改善、雇用者報酬の上昇によって消費が回復する姿を描いて国民全体で努力し続ければ、日本の未来は明るい。
参考:日本経済新聞 2020/2/21付[有料会員限定]
低下続く労働分配率(下) 企業、労働者の努力に報いよ 小野浩 一橋大学教授
日本経済新聞 2020/7/19付[有料会員限定]
最低賃金、大詰め審議雇用不安、大幅上げ難しく 2020/7/19付[有料会員限定]